ホームステージングの領域について!日本特有の問題を解決するために進化している
2017年頃から不動産業界を始め、リフォーム業界などさまざまな業界でホームステージングを導入する動きが強まっていると言われています。このホームステージングについては、1970年代のアメリカで誕生したとされていて、もともと中古住宅市場が活発な欧米では、中古住宅の高値売却や早期成約を実現する方法として積極的に取り入れられるようになっています。
日本の不動産売買については、「新築信仰」という言葉が作られているように、住宅購入希望者の多くが新築住宅を求めるという傾向があったため、諸外国と比較すると、ホームステージングの導入はやや遅れていたといえるでしょう。しかし、少子高齢化を要因とした人口減少により、全国的に空き家の増加が問題視されるようになった昨今では、国や自治体が中古住宅市場の活性化を後押しするようになっていて、徐々にホームステージングによる販売促進が注目を集めるようになったわけです。
そして、日本におけるホームステージングは、アメリカなどの欧米で実施されるホームステージングとは少し異なる進化を見せていると言われています。というのも、日本では、ホームステージングが誕生したアメリカなどが直面していないさまざまな問題が存在したため、日本の住宅事情に合わせてホームステージングそのものが変化しているとされているのです。例えば、高齢化や空き家の増加による住環境の悪化が指摘される日本では、「家具などの設置による空間のコーディネート」だけでなく、片付けや掃除、遺品整理に不用品の回収・リサイクルなど、日本の住宅事情に見合ったサービスが求められるようになっているのです。日本のホームステージングについては、空間のコーディネートに加えて、片付けや掃除、遺品整理、それらに関連する廃棄・保管・物流の知識なども含めて、より快適で住み心地の良い住まいを実現するための専門知識や技術を組み合わせ、日本独自のホームステージングとして体系化されているのです。
そこでこの記事では、日本独自のホームステージングについて、どこからどこまでが「ホームステージングの領域に入るのか?」について解説します。

ホームステージングの一般的な認識について
それではまず、ホームステージングの一般的な認識について解説します。日本国内でもホームステージングの注目度が高くなっていますが、一般的な認識としては「売却や賃貸を目的とした物件に家具やインテリアを配置し、室内を魅力的に演出するサービス」だと思います。ホームステージングは、物件を内覧した時、購入希望者に「この家に住みたい」と思わせることで、早期売却や高値での成約を促す効果が期待できるとされています。
具体的には、以下のように物件内を魅力的な空間に見せるという方法が、ホームステージングと考えられているのです。
■ホームステージング前

■ホームステージング後

上の画像のように、ホームステージングは、空室状態の物件内に、家具やインテリア、植物や照明を設置することで魅力的な空間を作り出すという販促手法と解説されることが多いです。
新築住宅の売却においては、空室状態の物件を内覧してもらうのではなく、モデルルームやモデルハウスと呼ばれる内覧専用の部屋が設けられています。完成前の分譲マンションなどの場合、建築中のマンションの近くに、同じ間取りの部屋をわざわざ作り、そこに家具などを配置して内覧させるほか、完成後の物件については、売却予定の物件内に家具やインテリアを配置して魅力的な空間に見えるようにするという対策は、当たり前に実施されています。
一方、中古住宅の売却や賃貸物件の入居者募集に関しては、基本的に空室状態のまま確認してもらうという方法が一般的でした。しかし、中古住宅市場が活発になってきた、賃貸物件市場も人口減少により供給過多と言われるようになってきたことで、ライバル物件との差別化を図るための対策が求められるようになったわけです。空室状態のまま内覧した時には、どれも同じような物件に見えてしまう、部屋のサイズ感が分かりにくいといた声が多いことから、売却や賃貸を目的とした物件でも、家具などを配置して魅力的な空間を作り出すホームステージングが取り入れられ始めたわけです。
ただし、日本国内におけるホームステージングについては、「物件に家具やインテリアを配置し、室内を魅力的に演出する」という対策以外にも、物件の魅力を引き出すための手法がさまざまあるのです。つまり、ホームステージングとは、単に家具などを配置するという方法ではないという点に注意が必要なのです。次項で、日本独自の進化を続けていると言われるホームステージングについて、どのような作業がホームステージングの領域に入るのかについて解説します。
ホームステージングの領域
それでは、日本におけるホームステージングについて、「どのような対策がホームステージングの領域に含まれるのか?」について解説していきます。ホームステージグは、売却や賃貸を検討している物件について、何らかの対策を施すことで高値での売却や早期の成約を実現することが目的とされています。そのため、極論を言うと「家が高く売れる対策」もしくは「早く買い手を見つけられる対策」は、総じてホームステージングの一種と言えるのかもしれません。
しかし「どこからどこまでがホームステージングの領域なのか?」については、一般社団法人日本ホームステージング協会が「ホームステージングガイドライン」の中で規定しています。そこでここでは、このガイドラインの中で、ホームステージングの領域がどこからどこまでとされているのかについて解説します。
①整理収納(片づけ、快適収納比率)
一つ目は片付けや表に出ている物を減らすという整理整頓です。ホームステージングとは全く関係がなさそうに思えますが、日本の中古住宅の売却を考えたと時には、非常に重要な要素となります。
そもそも、中古住宅の売却については、前の入居者が既に新居に引っ越ししていて、空室状態で売却活動を進めるというケースの方が少ないです。日本における中古住宅の売却では、居住中のまま家の売却を進め、成約後に新居に移るというケースが6割以上とされているのです。つまり、物件の売却活動は、日常生活と並行して実行していかなければならないという状況が多いのです。
この場合、物件の内覧対策のため、おしゃれな家具やインテリアを設置して物件を魅力的な空間に見えるようにすることはなかなか難しいです。家具やインテリアだけ状態の良いおしゃれな物に交換したとしても、空間内の見える位置に日用品などがたくさんあれば、内覧者の印象は「散らかっている…」「入居後の生活がイメージできない…」など、ネガティブなものになってしまう可能性が高いです。実際に、新築のモデルルームやモデルハウスに関しては、空間内の目に見る場所に配置される物品の数はできるだけ絞り、シンプルでおしゃれな空間になるようにするという対策が実施されています。
居住中の物件売却を難しくさせる一つの要因として「モノの多さが生活感を出す」ということが指摘されています。モデルルームの場合、家具や小物の点数が一部屋あたり200点以下に抑えられることが多いのですが、居住中の物件内には数千点以上のモノがあり、どうしても雑多な印象から生活感を醸し出してしまい、購入希望者の購買意欲を下げてしまうのです。
ホームステージングは「早期の成約」が大きな目的のため、このような弱点を解消しなければいけません。そのため、内覧者の目に入るモノを可能な限り減らすための片づけや収納など、整理整頓がホームステージングの一種とされているわけです。
②断捨離(不要家財の区分・分別)
日本の住宅市場では、高齢化や人口減少、空き家の増加などの原因による住環境の悪化から起こるさまざまな問題が表面化しています。そのため、ホームステージングが誕生したアメリカなどとは少し異なる形で進化を続けているとされていて、不要家財の区分、分別と言った断捨離がホームステージングの領域の一つとみなされているのです。
例えば、現在、全国各地で問題視されている空き家の増加を考えてみましょう。これは、核家族化が進む日本では、親世代と離れた都市部に生活の拠点を作る方が増えていて、実家の相続により空き家化してしまうという事例が多くなっていることが大きな要因となっています。実家の相続が発生した時、既に離れた場所に自宅を購入しているという方の場合、実家の取り扱いに困ってしまう訳です。
そして、相続した実家の売却を検討した時には、家の中に残されている不要な家財の処理が必要になります。状態の良い家具・家電であれば、物件の付属設備として家ごと売却することも可能ですが、使い古された家具などが配置されたままの場合、売却を困難にする要因になってしまいます。
そのため、ホームステージングでは、空き家に残された家具や居住中の物件売却について、不要家財の分別、回収なども実施するようになっているのです。
③遺品整理(遺品や相続に関する知識とサポート)
②で紹介した断捨離にも関係しますが、空き家の売却などに関しては、単純に「不要な家財」として物品を区分するのではなく、遺品整理として依頼者の状況や気持ちに寄り添い、希望に合わせて、仕分けしながら最適なサポートをしていかなければならない場合も多いです。
他人から見れば不用品だったとしても、遺族からすれば思い出の詰まった物品な訳ですし、処分する前に遺品の供養などが実施されることもあるのです。超高齢化社会と言われる日本では、親世代が住んでいた実家を相続し、中古物件として売却するというケースは、今後もどんどん増えていくと考えられています。そのため、家の売却時には、単純な不用品の処分なのではなく、依頼者の気持ちに寄り添った遺品整理が求められるのです。
こういった、日本特有の社会問題にも対応するため、ホームステージングは遺品整理も領域の一つと認識されています。実際に、ホームステージングの認定資格である「ホームステージャー」の資格試験では、日本特有の住環境に対応するため、生前整理や遺品整理について学べるカリキュラムなどが用意されています。
④掃除(汚れの分析と対処方、洗剤・用具の基礎知識、消臭・除菌)
中古住宅の売却や賃貸物件の入居者募集を考えた時には、家具などを配置する以前に、物件そのものが清潔で綺麗な状態なのかが「スムーズな成約」に非常に重要な要素になります。
どれだけ素敵な家具やインテリアを配置したとしても、物件そのものの壁や床が汚れている、傷が残っているという状況なら、購入希望者の印象は悪くなってしまいます。そのため、『売れる物件』にするための対策としては、汚れを落とす、悪臭を無くすための消臭など、掃除の知識も求められるのです。
実際に、昨今のホームステージングサービスでは、家具などを配置する空室ホームステージングの次に、家の中を綺麗に掃除するハウスクリーニング作業の依頼が多くなっているとされています。
⑤生前整理(顧客心理、コミュニケーション)
ホームステージングは、シニアライフのサポートの面でも注目されています。これは、アメリカなど、欧米諸国で取り組まれているホームステージングとはかなり異なり、高齢化が進む日本独自の文化として注目されている領域だと思います。
ホームステージングの認定資格であるホームステージャーについて、2級の後に取得できる1級では、「生前整理や遺品整理など、主に福祉業界や介護業界で必要な技術を習得」できるとされるライフ部門のカリキュラムが用意されています。これは、ライフステージや年齢に合わせた整理や収納方法、使い勝手の良い住まいへのアドバイスなどを行えるようにすることが目的で、シニア世代に、自分で判断し、自分の身体が動くうちに安心安全な住まいにつくり変えることを働き掛けていくというものになっています。
例えば、高齢化が進む日本では、いざ介護生活が始まった時のことを考えて、「介護ベッドを置く場所はあるのか」、「手すりを付ける場所を考えて家具を配置しているか」と言ったシニア生活の動線の確保は、自宅に長く住むことを考えた時には非常に重要な要素となります。また、長年住んだ家には思い出のモノがたくさんあり、子供が親の家を片付けたいと思っても捨てて良いものがどれか分からないことで、なにをどうすれば良いのか分からない…と悩んでしまうケースも多いのです。
このような日本特有の社会問題に対応するため、ホームステージングは、顧客の気持ちを汲みながら生前整理のアドバイスを行うなど、住宅の枠を超えて「気持ち」をより豊かにするということも考えられるようになっています。今後も高齢化がさらに進行すると言われている日本では、ホームステージングが国の示す「地域包括ケアシステム」構築の一助となるかもしれないと期待されています。
※この部分は、通常の中古住宅売却などとはあまり関係がないかもしれませんね。
⑥廃棄と保管およびリサイクル(ホームステージングに関する法的な知識)
上で解説している通り、日本の中古住宅市場では、空き家の売却や居住中の家の売却がメインとなります。そしてこの場合、空室ホームステージングを実施する以前に、不要家財の回収や遺品整理といった作業が発生します。
当然、不用品として回収された荷物については、リサイクルできるものとそうでないものが存在します。リサイクルできるものに関しては、買取りに出すことで現金に変えることができますが、それ以外の不用品に関しては、廃棄物処理法をはじめとする関連法令に従った形で処分しなければいけません。つまり、ホームステージングでは、不用品のリサイクル作業や適切な方法による廃棄も業務のうちになるのです。
また、居住中の家の売却においては、日常生活で使用している既存家具を一時的に撤去し、レンタル家具に置き換えるといった対策が実施されるケースが多いです。この場合、既存家具は廃棄するわけではなく、売却が決まって新居に移る際に持っていくことが想定されるため、家財を保管する必要があります。この家財の保管についても、ホームステージングの領域とみなされています。
⑦インテリア(空間プランニング、テーブルコーディネート、アロマの知識、快適空間比率)
これは、皆さんがイメージする通りのホームステージングです。先程紹介したように、空室状態の物件に、家具やインテリアなどを配置することで、購入希望者に「この家に住んでみたい」と思わせるようなコーディネートを実施する方法で「空室ホームステージング」と呼ばれます。
なお、昨今では、空室状態の物件に家具などを配置するだけでなく、芳香剤などを用いた「におい」による演出やBGMを使った「音」による演出なども実施されるようになっています。
⑧インテリア写真の撮影及び画像(2D、3D、VR)
これは、実際の物件内に家具などを配置するのではなく、CG技術やVR技術を用いて物件画像に家具などを配置する方法です。不動産業界では「バーチャルホームステージング」や「AIホームステージング」などという名称でサービスが展開されるようになっています。
バーチャルホームステージングは、コロナ禍の2020年頃に登場した手法です。コロナ禍は、人との接触を可能な限り少なくすることが求められたことで、非接触による入居者募集の手段が求められるようになり、VR技術を用いたバーチャルホームステージングが開発されたという流れです。
バーチャルホームステージングを利用すれば、空室物件の画像に家具などを配置した物件画像が用意できる、居住中の物件の場合、既存家具や汚れを消して魅力的な物件画像にすることができます。そのため、インターネット上の物件検索サイト上でライバル物件と差別化できるようになると、仲介を担う不動産会社を中心に取り入れられるようになっています。
関連:バーチャルホームステージングとは?リアルとの違いやVRのメリット・デメリット
⑨エクステリア(ガーデニング)
これは、戸建て住宅の庭の草刈りや樹木の剪定などを指しています。ホームステージングは、「空室の物件に家具やインテリアを配置する」「水回りの汚れを綺麗に落とす」など、あくまでも物件内部に施される対策と考えられがちです。しかし、庭付き一戸建て住宅の売却を考えた時には、いくら室内をおしゃれで素敵な空間にしたとしても、庭が散らかり放題の場合、購入希望者の印象を悪くしてしまいます。
ホームステージングは、売却や賃貸を検討している物件について「高値での売却」や「早期の成約」を目的に実施される対策です。つまり、物件の印象を悪くするような要因は全て解消しなければならないわけなので、外構部分の整理や掃除も含まれているわけです。
特に、空き家の増加が社会問題化している昨今では、庭の状態が悪いことを要因に、物件そのものの印象が悪くなり買い手が付かない…となっている物件が増えています。そのため、ホームステージングを実施する際には、建物内部だけでなく、外構部分の掃除や装飾の依頼が増えています。
このように、日本国内におけるホームステージングは、諸外国と比較すると、そのサービス内容が多岐にわたるという特徴があります。築年数が経過した物件の売却では、「どこから手をつければ良いのか分からない…」となってしまうケースが多いと思いますので、まずはホームステージング業者に相談してみると良いでしょう。
まとめ
今回は、不動産の売却や賃貸を促進させるための手法として注目されているホームステージングについて、日本国内における「ホームステージングの領域」について解説しました。
ホームステージングは、空室状態の物件に、家具やインテリア、照明などを配置することで、魅力的な空間を作り出し、購入希望者に「ここに住んでみたい!」と思わせるための対策と紹介されることが多いです。そのため、多くの方は「ホームステージング=室内の空間演出」と言った理解をしていると思うのですがそうではないのです。特に、日本国内におけるホームステージングは、諸外国にはない我が国特有の社会問題を解決するため、サービスが多様化しているという特徴があります。実際に、2024年に実施されたホームステージングについては、空室ホームステージング以外にも、以下のようなさまざまな対策が実施されているのです。
上のグラフの通り、空室ホームステージング以外にも、ハウスクリーニングや片付け、不要家財の回収など、多岐にわたる作業が実施されています。家の売却を考えた時には、何から始めれば良いのかが分からないという声を聞く機会が多いのですが、ホームステージングの場合、日本の不動産売却で必要になる作業をまとめて依頼することができるという点が大きなメリットになっていくと考えられます。
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