2025.11.12

不動産の短期売却を後押しするホームステージング!理解しておきたい基礎知識を紹介

ホームステージングは、不動産の売却や賃貸を促進するための方法として、年々その注目度が高くなっています。もともと、中古住宅市場が活発なアメリカで誕生した方法なのですが、空き家の増加が社会問題化し、国や自治体が既存住宅(中古住宅)の有効活用・再利用へと政策の舵を切ったこともあり、日本国内でも徐々にホームステージングの認知度が高くなっています。

特に、2020年代に入ってからは、新型コロナウイルス問題に対応するという目的で、不動産賃貸業界においてホームステージングを取り入れるという動きが急速に拡大しています。コロナ禍では、対面での営業が難しくなったこともあり、インターネット上で物件内を見学できるサービスや不動産会社の担当者が同行しない「セルフ内見」や「無人内見」と呼ばれる方法が開発されています。ただ、これらの内見方法は、物件の良さを不動産会社の担当者が現場で説明できないという点が弱点となるため、顧客単独で内見したとしても物件の魅力が最大限伝わるようにするという目的でホームステージングを取り入れるケースが増えたとされているのです。

2025年現在では、仲介を担う不動産会社を中心にホームステージングの利用が拡大していますが、まだ新しい技術であるという点から、基本的な部分について疑問を感じている方も少なくないと思います。そこでこの記事では、不動産の短期売却を後押ししてくれるとされるホームステージングについて、おさえておきたい基礎知識を解説します。

ホームステージングの目的は「高値売却」と「早期売却」

不動産の売却を成功させるためには、物件の「第一印象」が極めて重要となります。不動産の購入を検討している内覧者が物件に足を踏み入れた瞬間、「この物件に住んでみたい!」と思わせることができるかどうかが、不動産売却を成功させるカギとなるのです。

売買でも賃貸でも、内覧者の直観に訴えかけることができれば、その物件の訴求力は飛躍的に高まります。ただ、不動産の売却や賃貸において、成約のカギを握るのは単なる美観の追求ではないという点に注意が必要です。物件の第一印象を高めるためには、その物件の価値を最大限まで引き出し、競合物件との差別化を図るための戦略的なアプローチが必要になります。不動産の仲介を担う不動産会社は、物件の評価を行う際、立地条件や物件の規模、築年数や近隣の売買状況などといった客観的なデータに基づいて行います。そのため、物件の内部が綺麗でおしゃれにコーディネートされていたとしても、空室の状態を容易に想像することができ、物件の評価が見栄えに大きく影響されるようなことはありません。

しかし、一般の購入希望者が物件の評価を行う時には、「ここに住んでみたい!」という直感的な印象に強く影響をされてしまうもので、ちょっとした手間で交渉を優位に進められるようになるだけでなく、最終的な売却額にも大きな差が生まれてしまう場合があるのです。そして、この購入希望者の直感的な価値を創造し、客観的価値を引き出すための手法がホームステージングなのです。

実際に、欧米の中古住宅市場では、不動産の売却を有利に進めるための方法としてホームステージングが標準的な手法として広く採用されています。例えば、スウェーデンなどでは、売りに出される中古住宅について、その8割以上にホームステージングが実施されているというデータもあるのです。また、アメリカの調査会社によるデータでは、ホームステージングを実施した物件は、未実施の物件と比較すると、売却期間が半減したうえ、売却価格については、希望の価格よりも6%以上高くなったというデータも報告されているのです。

このように、ホームステージングは、内覧者が物件に足を踏み入れた時、直感的に「ここに住みたい!」と思わせることで、物件の早期売却や高値での売却を後押しする方法として日本国内でも徐々に利用が拡大しているのです。

理解しておきたいホームステージングの基礎知識

ホームステージングは、物件内の美観を追求するという単純な方法ではなく、購入希望者が内覧した際、直感的に「ここに住みたい!」と思わせることで、早期の売却や高値での売却を目指すと言いう方法です。

それでは、実際に不動産の短期売却を目指してホームステージングの実施を検討しているという場合、どのような点に注意しなければならないのでしょうか?ホームステージングは、日本国内でも取り入れられることが増えてきたと言われるものの、まだ全ての不動産会社が取り入れているという方法ではありません。

中には、「ホームステージングという言葉を耳にする機会が増えているけど、その中身はまだよくわからない…」という方もいるかと思うので、ここでは理解を深めておきたいホームステージングの基礎知識についてご紹介します。

バーチャルとリアル

ホームステージングは、売却や賃貸を考えている物件に対して、室内に家具やインテリア、植物や照明を配置することで、内覧者が「ここに住んでみたい」と思うような空間を作り出す方法をイメージする方がほとんどだと思います。実際の物件に、家具などを運び込み、そこでの生活を具体的にイメージできるように、プロのホームステージャーがコーディネートするという方法がホームステージングと解説されることが多いです。

しかし、昨今のホームステージング業界では、実際の物件に家具などを配置するという方法ではなく、物件の室内画像を用意して、CGで制作した家具などの画像を配置していくという手法が開発されています。実際の物件に家具などを配置する方法は「リアルホームステージング」、画像を加工することでステージング後の状況を作る方法は「バーチャルホームステージング」と呼ばれ、区別されるようになっています。バーチャルホームステージングは、コロナ禍に対面での物件案内が難しくなったことで開発された手法で、インターネット上の物件広告での差別化や、オンライン内覧を実施するための手法として、賃貸業界で広く普及し始めています。

つまり、ホームステージングの実施を検討した時には、バーチャルとリアルという方法について、どちらが最適な方法と言えるのかを判断する必要があります。ホームステージングについて、バーチャルとリアルと呼ばれる手法にはさまざまな違いが存在します。

まず大きな違いとして言えるのは対策にかかる費用があります。欧米などで広く普及しているリアルホームステージングの場合、実際に家具などを購入もしくはレンタルして、物件内に配置するという手法となるため、人件費や材料費がそれなりにかかってしまいます。もちろん、物件の規模や採用する家具・インテリアのグレードや数によって費用が変わるのですが、専門家への依頼料も含めると、1物件当たり数十万円の費用がかかるケースも多いです。また、家具などを用意するためには、レンタルの場合で月額3~5万円程度の費用がかかります。
一方、バーチャルホームステージングの場合は、物件の室内画像を用意して、制作を依頼する業者に送付すれば、CG技術を用いて家具やインテリアを配置した画像を生成してくれます。最近では、ユーザー自身が物件内に家具を配置することができるシステムが開発されているため、そういったサービスを利用してステージング後の画像を生成することもできるようになっています。バーチャルホームステージングの場合は、あくまでもパソコン上での作業となるため、リアルホームステージングと比較すると、大幅に費用を抑えることができ、1枚あたり1万円以下でステージング後の画像を用意することができるようになっています。なお、バーチャルホームステージングの費用に関しては、静止画やパノラマ画像など、種類によって費用感が変わりますが、リアルホームステージングよりは確実に費用を抑えられると考えられます。

こういったことから分かるように、インターネット上の物件検索サイトに魅力的な画像を掲載して、視覚的な差別化を行いたいと考えるなら、バーチャルホームステージングが最適と言えます。

しかし、バーチャルホームステージングは、あくまでも「画像を加工するだけのサービス」という点に注意しなければいけません。実際の物件は、何の対策も実施されていないことになるため、内覧時に顧客が受ける印象が余計に悪化してしまう可能性が指摘されているのです。

バーチャルホームステージングは、VR技術やCG技術を使い、物件が「魅力的な空間に見えるように画像を加工する」という手法です。最近では、単にCGで制作した家具やインテリアを配置するだけでなく、室内の汚れやキズを消し込むといったことも可能になっているため、実際の物件とはかけ離れた状態の物件を作り出すことが可能なのです。
そのため、購入希望者が物件を内覧した時には「思っていた状態とはかなり違う」という印象を与えてしまい、期待とのギャップが大きくなることで、必要以上に購入意欲を低下させてしまうことがあるのです。不動産の商談において、このような印象の変化は、成約を妨げる大きな要因となります。内覧時に「適切に家具やインテリアを配置すれば、イメージしていた通りの生活ができるはず」といくら説明したとしても、一度損なわれた印象を取り戻すのは相当に難しいです。特に、物件の汚れやキズを意図的に隠していたとみなされた場合、「ホームステージングを使って顧客を騙そうとした!」という致命的な悪印象を与えてしまう可能性もあるのです。

不動産の売却を考えた時には、いくら魅力的な物件画像を用意したとしても、顧客は最終判断として実際の物件に足を運び、内覧をするという工程が必ず挟まれることになります。そして、内覧時には、実際に家具などが配置されたリアルホームステージングの方が好印象を与えることは間違いないのです。また、リアルホームステージングの場合は、ステージング後の物件を撮影して広告画像として利用するという方法が一般的なため、顧客の期待と実物のギャップが少なくなり、現場での交渉がやりやすくなることも期待できるのです。

最近では、ZOOMなどを用いたオンラインでの物件相談も増えていますし、そのような場合にはバーチャルホームステージングの画像を用意して物件の魅力を訴求するという方法は効果的だと思います。しかし、最終的に内覧をさせることまで想定すると、実物とバーチャルホームステージングの格差に注意しなければいけません。

バーチャルホームステージングとリアルホームステージングのいずれを採用するかは、予算の問題だけでなく、何の目的でホームステージングを実行するのかを明確することで、より効果的に利用できるようになると思います。

効果的なホームステージングにするためのレイアウトの基礎知識

リアルホームステージングとバーチャルホームステージングのいずれにおいても、効果的な対策とするには統一感のある魅力的な空間を作り出すことが大切です。専門業者に対策を依頼すれば、的確なターゲットを設定したうえで、効果的なコーディネート計画を作ってもらうことができますが、自分でホームステージングを実施した際には、完成した状態を確認した時に「違和感が残ってしまう…」と感じることも少なくないようです。

効果的なホームステージングにするためには、統一感のある空間を実現しなければならないので、ここではステージングを実施する際に重要になるレイアウトの基礎知識についても簡単にご紹介します。

  • 配色について
    一般の方がホームステージングを実施する際には、配色に関する失敗を多く見かけます。色はたくさんあった方が「にぎやかになって良い」と考える人もいるのですが、過度に多くの色を使うと、目から入る情報が増えすぎて、雑多でまとまりのない印象を与える可能性があるのです。つまり、統一感のある素敵な空間を作り出すためには、配色はある程度絞った方が良いのです。一般的に、居室ごとの配色は5色以内が適切とされ、「ベース(床・壁など):アソート(家具・カーテンなど):アクセント(小物類)」の比率は「70:25:5」または「60:30:10」の配色の黄金比を用いることが推奨されています。
  • 素材について
    統一感のあるホームステージングを実施する際には、アソートやアクセントを選択する際に、可能な限り素材を統一するということも重要です。アソートやアクセントの素材を統一することで、スッキリとした印象を演出することができます。
  • テイストについて
    テイストは、センスがもっとも問われるポイントになります。色や素材が一致していたとしても、テイストによって内覧者に与える印象は大きく変わります。各要素のバランスと調和を意識しながらコーディネートしていく必要があります。
  • ラインについて
    ホームステージングを施す際には、部屋全体の要素に規則性を持たせることも重要です。例えば、配置する家具の高さと建具や窓のラインが整っていない場合、部屋に足を踏み入れた際にちぐはぐな印象を与えてしまう可能性があります。直線部分に規則性を持たせることができれば、統一感を与えることができ、部屋を広く見せることもできるのです。例えば、部屋の入り口から奥に向かって、高いものから低いものになるように家具を配置していくと、遠近法の効果で部屋を広く見せることができます。
  • 物量について
    魅力的な空間を作り出すためには、物量にも注意する必要があります。人は、床面で部屋の広さを認識していると言われていて、家具の配置を控えめにし、適度に余白を確保することで広い空間という印象を与えることが可能です。また、物量が多くなると、視覚的な情報が増えてしまうため、雑多な印象を与えてしまうのです。例えば、新築のモデルハウスやモデルルームは、一室あたりの家具や小物の点数を、100個程度に収めるようにしていると言われています。ホームステージングでも、モノを置きすぎるのではなく、適度な量におさえることで、統一感を演出できます。

ホームステージングを実施する際には、上記のような要素を意識しながら空間をコーディネートする必要があります。なお、内覧者の第一印象を良くするためには、統一感が重要になるとはいえ、物件の特性によって変化するターゲット層の見極めも非常に重要です。例えば、純和風の住宅なのに、欧米風の家具ばかりでコーディネートしたのでは、どうしても違和感が残ってしまい、ホームステージングの効果が失われてしまいます。

したがって、室内のコーディネートを実施する際には、建物の外観を意識して統一感を持たせるのと同時に、物件のターゲット層を見極め、その人たちが最も気に入る最適な対策を実施することが求められるということを意識しましょう。

ターゲット層の見極めとそれぞれの特色について

ホームステージングの成否は、最初のターゲット層の絞り込みが大きく影響を与えます。例えば、物件の購入対象が、単身者なのかDINKSか、それともファミリー層かシニア層なのかによって、物件に求めている条件が大きく変わるということは皆さんも認識していると思います。

ホームステージングは、売却もしくは賃貸を検討している物件について、どのような層の人がターゲットになるのかを明確にし、その上でその人たちのライフスタイルに合ったコーディネートを実施することが重要になるのです。ここでは、ターゲット層ごとに留意すべきポイントをご紹介します。

■単身者

賃貸物件のホームステージングでは、単身者向け物件が多いかもしれません。単身者向け物件の場合、以下のような事を意識する必要があります。

  • コンパクトかつ機能性を重視
  • デザインやカラーはシンプルでかつ明るめにする
  • 収納が少ない傾向にあるため、家具配置は整理整頓を意識する

■DINKS

DINKSとは、「Double Income No Kids(ダブルインカムノーキッズ)」の略で、共働きで、意図的に子どもを持たないライフスタイルを選択した夫婦のことを指しています。この場合、以下のような事を意識してコーディネートを進める必要があります。

  • 生活導線を重視した家具配置を意識する(オープンキッチンやダイニングを中心に考える)
  • ミニマリストスタイルやモダンでスタイリッシュなコーディネートを好む傾向が高い
  • 明るく開放感のあるカラーを好む傾向が高い(グレーやホワイトなど、ニュートラルカラーを使用して落ち着いた雰囲気を作りながら、適切にアクセントカラーを追加し、個性を演出することで好印象が与えられます)

上記のほか、DINKS層は趣味や個性を大切にする人が多いとされているため、インテリア小物については、アート作品やデザイン性の高いものを取り入れることで、好印象を与えやすいとされています。この他、物件内にワークスペースを作るなど、DINKS特有の提案も効果的です。

■ファミリー層

ファミリー層がターゲットとなる場合、居住性の良さが重視されていて、リラックス感のあるデザインが好まれるとされています。モノが多く、雑多なイメージになると、物件全体のイメージが悪くなってしまうので、特に居住中の物件売却の場合は、家具の配置だけでなく、片付けや整理整頓にも力を入れる必要があります。

ファミリー層がターゲットとなる物件は、部屋数が多いことが想定されます。もちろん、物件全体に対策を施す方が高い効果を見込むことができるのですが、手間やコストのことを考えると、全面的にステージングを施すことが難しい場合もあるでしょう。この場合、家族全員が集まるリビング・ダイニングスペースを中心とするのが良いでしょう。ただ、水回りは慎重に確認する方が多いため、キッチンやバスルーム、洗面台などの清掃は集中的に実施しておく必要があります。

■シニア層

最後はシニア層がターゲットとなる場合です。以下のような点に注意しながらコーディネートの計画を立てていきましょう。

  • 安全性を優先した家具配置を心がける
  • 高さにも配慮する(圧迫感を与えないように)
  • 移動しやすい空間づくりを意識する
  • 「色彩のバリアフリー」を意識する

色彩のバリアフリーは、色の見え方が異なる人々(色覚特性を持つ人々)にも情報が正しく伝わるように、デザインや配色に配慮することを指していて、シニア層をターゲットとしたホームステージングの場合は、視認性を高めた暖色系のカラー(赤やオレンジ、黄色など)やリラックス感を演出するアースカラー(ブラウン、ベージュ、グリーンなど)を適切に織り交ぜるといった対策になります。人間の視力は、加齢によって低下していくのですが、目のレンズに当たる水晶体も加齢にともなって濁り始めるとされているため、60台を超えると白内障になる方が急増するのです。この場合、色覚が低下している状態なので、ステージングの際には色彩に配慮することが大切になるのです。

まとめ

今回は、不動産の短期売却や高値売却を後押しする方法として注目されているホームステージングについて、実際にホームステージングを取り入れる際におさえておきたい基礎知識を解説しました。

不動産の売却を考えた時には、誰もが迅速かつ有利な条件での取引を望んでいると思いますが、購入希望者側の望みと売主の望みが相反するものであるため、なかなかスムーズに買い手が見つからないとなるケースは珍しくないのです。

仲介を担う不動産会社は、顧客の希望を叶えるため、多角的な視点で販売戦略を構築していくのですが、その中でも近年ではホームステージングが短期売却や高値売却を実現するための手法として極めて有効とみなされるようになっています。記事内でもご紹介していますが、アメリカの調査会社が公表しているデータでは、未実施の物件と比較した場合、売却期間が半減したうえ、価格も6%以上高くなったとされているのです。

もちろん、ホームステージングは、単に家具などを配置しただけでは思うような効果は得られないので、その効果を最大限引き出すためには、上で紹介したホームステージングの基本原則をしっかりと理解したうえで、適切な対策を講じられるようにすることが大切です。