バーチャルホームステージングの主な機能と導入時の注意点をご紹介!
昨今では、中古住宅の高値売却や早期売却、また賃貸物件における空室期間の長期化を解消するための手法としてホームステージングが注目されています。
ホームステージングは、空室状態の物件に対し、部屋の中に家具やインテリア、植物や照明を配置することで物件を魅力的に見せ、内覧時の印象を良くすることで早期の成約や高値での売却に繋げるという対策になります。もともと、中古住宅市場が活発なアメリカで誕生した販促手法なのですが、2000年代前半に日本でも導入され始め、2020年代に入ってからは不動産の売買や賃貸を仲介する不動産会社を中心に一気に導入が拡大しています。
そして、デジタル技術が急速に発展する中、ホームステージングの一種としてバーチャルホームステージングと呼ばれる販促手法が登場し、不動産会社を中心に利用が拡大しています。例えば、日本ホームステージング協会が公表しているホームステージング白書2023年によると、バーチャルホームステージングの導入については、2022年から2023年にかけて、一気に導入割合が増加しているというデータが出ています。不動産売買部門におけるバーチャルホームステージングの導入に関しては、2022年において「導入していない」という回答が73%だったのに対し、2023年になると72.3%が導入していると回答しているのです。これからも分かるように、バーチャルホームステージングは、2023年を境に、一気に導入率が高まっているのです。
ただ、バーチャルホームステージングについては、まだまだ新しい技術であることから、不動産会社の中にも「どのようなことができるの?」といった感じに、基本的な部分がわからないという方も多いです。また、間違った使い方がなされているという注意喚起などもなされている状況なので、この記事では、バーチャルホームステージングで出来ること、さらに導入時の注意点をご紹介します。
バーチャルホームステージングの基本と導入時のメリット
それではまず、そもそもバーチャルホームステージングがどのようなサービスで、導入することでどんなメリットが得られるのかについて解説します。
冒頭でご紹介したように、バーチャルホームステージングは、昨今の不動産業界で注目されているホームステージングの一種です。一般的なホームステージングは、空室状態の部屋の中に、家具やインテリア、照明などを実際に配置して、内覧者に良い印象を与えられる空間を作る対策です。空室状態の部屋を見ても、入居後の生活などはイメージしにくいため、新築のモデルルームのように部屋の中をコーディネートするわけです。
一方、バーチャルホームステージングについては、実際の部屋に家具などを配置するわけではなく、VR技術やCG技術、AIなどを用いて、仮想空間上で物件写真に家具やインテリアを配置するというサービスになっています。なお、スマホの機能にもあるように、写真の中に存在する物品を「消す」ということも可能になっていて、家具を配置することで入居後の生活イメージを視覚的に提案するだけでなく、不要な物を消して物件の魅力を高めるといった使い方ができるようになっています。仮想空間上でホームステージングを施すことから「バーチャル(仮想的)」と名付けられていて、この技術が広く普及した昨今では、一般的なホームステージングを「リアルホームステージング」と呼び、区別するようになっています。
バーチャルホームステージングの場合、物件写真を活用するため、空室状態にホームステージングを施すことはもちろん、居住中の物件でもステージングが可能です。パソコン上で、簡単な操作を実行するだけで、インテリアコーディネートが可能であるため、実際の家具やインテリアを搬入・配置するリアルホームステージングと比較すると、手間やコストを抑えられる方法として注目されています。
バーチャルホームステージング導入時のメリット
バーチャルホームステージングは、実際の部屋に家具などを配置するわけではありません。そのため、導入することで得られるメリットについては、インターネット上の不動産検索サイトに作成した画像を掲載することで、問い合わせ件数や来店数、内見率、反響率の向上などを見込むことができる点と言えるでしょう。
具体的には、以下のようなメリットが得られると言われています。
- ホームステージングの実施にかかるコストと手間を大幅に削減できる
これは、実際の部屋に家具などを配置するリアルホームステージングと比較した場合のメリットです。リアルホームステージングの場合、部屋をコーディネートするためには、家具やインテリアを搬入し、配置していかなければいけません。また、成約後は搬入した家具を撤去しなければならないなど、実施にはかなりの作業量が発生します。さらに、不動産会社自身で対策を施す場合、家具やインテリアを購入しなければならないので、ホームステージングにはかなりのコストがかかります。一方、バーチャルホームステージングの場合、物件画像をもとにCGで制作した家具を配置していくだけなので、ほとんどの作業はPC上で完結します。そのため、1シーン(1部屋)あたりの費用相場は10,000円前後と、リアルホームステージングと比較すると圧倒的にコストを抑えられるのです。成約後も家具の撤去と言った作業も不要ですし、購入した家具の保管・メンテナンスも不要となるので、さまざまな面で手間やコストを削減できます。 - 反響率・内覧者数の向上
バーチャルホームステージングを導入すれば、ネット上に掲載する物件画像が充実します。仮想空間上でホームステージングを施すため、多彩なインテリアスタイルを同時に提案することも可能ですし、360度パノラマVRなども作成可能です。そのため、もともと空室状態の物件画像を掲載していた時と比較すると、物件の魅力を視覚的に最大化することができるのです。現在の不動産市場は、インターネット上の不動産検索サイトが顧客とのファーストアプローチの場となっているため、そこに閲覧者が具体的な生活をイメージできる画像を掲載すれば、webからの反響率や問合せ数、内覧への来場希望数が一気に増加すると期待できます。内覧者が増えれば、結果として成約率の改善や空室期間の短縮などに繋がると期待できるでしょう。
バーチャルホームステージングは、手間やコストを削減しながら、物件の反響率を大幅に向上させることが期待できる点が大きなメリットになります。物件画像をもとにして、仮想空間上でホームステージングを施すという対策となるため、テイストの異なるコーディネートを複数用意することもでき、さまざまな層のターゲットに同時に訴求することができるという点も大きな魅力といえるでしょう。リアルホームステージングの場合、異なるテイストのコーディネートを実施するには、一度設置した家具などを撤去し、再度搬入しなければならないため、手間や時間、コストがかかってしまい、現実的ではありません。
バーチャルホームステージングの主な機能について
それでは次に、バーチャルホームステージングは「どんなことができるのか?」について解説します。先ほど紹介したように、バーチャルホームステージングは、2023年頃から一気に普及し始めた技術で、まだまだ新しいと言えるサービスです。そのため、不動産会社の中には、このサービスを導入することで「何ができるのか?」が未知数で、導入を躊躇しているという場合も多いようです。
そこでここでは、バーチャルホームステージングサービスの主な機能についてご紹介します。
機能① 家具やインテリアを配置する(バーチャルホームステージング)
バーチャルホームステージングのメインとなるサービスが家具やインテリアを配置するという機能です。バーチャルホームステージングの導入率が高くなっている昨今では、このサービスを取り扱う企業が増えているため、家具などの配置方法は、依頼する企業によって異なります。
例えば、「ナチュラル」「モダン」「北欧」「インダストリアル」と言ったインテリアデザインの候補があらかじめ用意されていて、希望のインテリアスタイルを選択することで、AIが家具などを自動で配置してくれるサービスなども登場しています。この他、物件画像を提出することで、希望のインテリアスタイルに合わせてCG技術で家具などを作成し、配置するといったサービスもあります。
バーチャルホームステージングは、建築基準法などの日本の法律にも対応して、部屋の寸法に合わせて既製品と同じサイズの家具を配置するようになっています。そのため、日本の住宅事情に合わせたステージングが実現し、広告画像などとして役立てられています。なお、最近では、家具などを配置するだけでなく壁や床をリノベーションした後のイメージを作成してくれるようなサービスもあります。
機能② 家具消し
バーチャルホームステージングは、空室状態の物件画像に家具やインテリアを配置するだけでなく、既存家具を画像から消去することにも対応しています。
例えば、居住中の物件を売却したいと考えた時には、使い古した家具や私物がある、壁や床の汚れやキズが目立つなどといった理由で、魅力的な物件広告画像にならないというケースが考えられます。この場合、バーチャルホームステージングを導入すれば、不要な家具や私物などを画像内から除去し、綺麗な空室状態の画像にしてくれるのです。もちろん、壁紙などの汚れが目立つ場合には、綺麗な壁紙にリフォームした後のイメージなども作成してもらえます。
家具消しや空室リフォーム状態にするバーチャルホームステージングは、特に居住中の物件売却に有効な対策と言えます。入居中の物件でも、バーチャルホームステージングを実施することで、早期に売却活動が開始できますし、売主のプライバシーを保護しながらweb上に物件広告を出せるというメリットが得られます。
機能③ 360度パノラマVR・3Dコンテンツ
インターネット上の物件広告でもよく見かけるようになった360度パノラマ写真や3Dコンテンツの作成も依頼することができます。
バーチャルホームステージングは、仮想空間上で物件内に家具やインテリアを配置するという方法なのですが、3DスキャンデータにCG家具を配置すれば、オンライン上で物件内をウォークスルー内覧できるようなVRコンテンツを作成することが可能です。
物件探しの段階で、部屋のサイズ感や間取りなどをリアルに体感してもらうことができるようになるため、反響率の向上などが期待できるでしょう。ただ、VRコンテンツの作成までになると、先ほど紹介したような費用で実現することはできないので、費用対効果について慎重に検討しなければいけません。
機能④ 画像加工
バーチャルホームステージングの機能としては、物件広告に適した状態に画像を加工してくれるというサービスもあります。例えば、物件の外観画像について、車のナンバーなどが移り込んでいた場合、その部分にぼかしをかけてくれるなど、細かな修正を行ってくれるのです。
この他、画像の明るさ調整なども行ってくれるため、物件画像を撮影する際は、時間帯や天候を気にせずに撮影ができるようになるとされています。夜間に撮影した物件画像でも、明るさを調整して昼間の物件画像に見えるように加工してもらうことも可能です。ただ、画像加工については、「やりすぎてしまうと逆効果になる」という点に注意しなければいけません。例えば、本来は日当たりが悪い物件を、バーチャルホームステージングによって明るいイメージの物件に加工し、広告として掲載した時には、内覧時にイメージが大きく異なることで不信感を与えてしまう危険があります。また、下で詳しく紹介しますが、本来の物件とはかけ離れた見た目に加工するといった方法は、優良誤認を誘引させる違反広告と指摘されるようになっています。
バーチャルホームステージング導入時の注意点
それでは、不動産の売却や賃貸を促進する目的で、バーチャルホームステージングの導入を検討している方に注意してもらいたいポイントもご紹介します。
バーチャルホームステージングは、家具のない状態で撮影した室内画像に、CGで作成した家具などを仮想設置して、入居後の生活イメージを演出するという対策なのですが、「不動産の表示に関する公正競争規約」と照らした場合、優良誤認を誘引する利用方法になっているケースが多くみられると指摘されているのです。
ここでは、バーチャルホームステージングを実際に導入する際、その利用時の注意点をご紹介します。
広告ルール上の注意点
バーチャルホームステージングは、VR技術やCG技術を活用して、仮想空間上でホームステージングを実施し、物件の魅力を引き出すことができる手法と言われています。空室画像を見ただけでは、部屋のサイズ感やそこでの生活イメージが伝わりにくいのですが、家具などがきちんと配置された物件画像を用意することで、リアルな生活イメージを伝えることができるとされています。そして、リアルホームステージングと比較すると、手間やコストを抑えられるという点から、顧客とのファーストアプローチとなるweb広告では、バーチャルホームステージングが非常に有効な手法とみなされるようになっているのです。
しかし、実際の広告にバーチャルホームステージングで作成した画像を使用する場合、いくつか重要な注意点があります。実際に、2022年10月には、バーチャルホームステージングについて、不動産の表示に関する公正競争規約と照らした場合、利用には注意が必要と(公社)首都圏不動産公正取引協議会が指摘しています。
ここでは、不動産広告に関する規約に違反せず、消費者にも誤解を与えないようにするためにも、バーチャルホームステージング実施時の注意点をいくつかご紹介します。
- 虚偽広告にならないよう注意
バーチャルホームステージングを実施する際には、宅地建物取引業法や不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)に従い、事実と異なる表現をしないことが大前提です。デジタル技術を用いてステージングする際には、現実にはないものがそのまま物件に付随しているように見えてしまう場合があります。例えば、家具付き物件ではないにもかかわらず、ホームステージングが施された画像を見た顧客が「家具も含まれている」と誤認してしまう場合があります。したがって、バーチャルホームステージングを導入する場合には、実際の物件の状況とは異なるということを明確にしておく必要があります。 - 物件の広さや構造を誤認させない
バーチャルホームステージングを施す際には、部屋の広さや間取りについて、実際の物件よりも広く見えるなど、誤認させないようにしなければいけません。例えば、GCで作成した家具が小さくて部屋が広く見える、空間を現実よりも広く見えるように加工するといった手法は、閲覧者に誤った印象を与える可能性があります。狭い部屋の場合、その弱点を隠すために、意図的に広く見えるような加工を施す場合もあるようですが、これは虚偽表示に該当する可能性があるため、部屋のサイズや実際のレイアウトに基づいてステージングを施すように心がけてください。 - 事実と異なる表現を避ける
バーチャルホームステージングにおいては、実際に設置されていない設備を描写しないことが重要なポイントになります。例えば、ホームステージング上の物件画像で、高級なシステムキッチンなどを追加しているものの、実際の物件にはそれが含まれていないというケースで、閲覧者が「システムキッチンが追加されている」と誤解すると、表示規約違反となってしまいます。物件のイメージを向上させるために、実際の物件にないアイテムを追加する場合、それらの設備が含まれているという誤解を生まないよう、実際にはないこと、物件価格には含まれていないことを明示しなければいけません。 - 設置する家具などは、搬入できることが大前提
バーチャルホームステージングは、仮想空間上で画像を加工する技術です。ホームステージングに関する作業は、すべてパソコン上で実施されるため、部屋の中には大型家具でも自由に配置することができます。しかし、何らかの理由で実際の物件には搬入することができない家具などを配置するのは、優良誤認を誘う不当表示に当たるとされているのです。例えば、大型の冷蔵庫やドラム洗濯機などの家電、大型のソファーや天幕付きベッドなどは、魅力的な空間を作り出すためには非常に効果的な物品と言えます。しかし、これらの大型家具は、物件によって階段や廊下、エレベーターのサイズが原因となり、実際の物件には搬入出来ないケースも少なくないのです。それなのに、そうした家具を置けるように見せるステージングを実施した場合、優良誤認を誘引する表示規約違反とみなされるのです。バーチャルホームステージングに利用する家具などは、「住戸内の設置場所まで運搬できるもの」を利用しなければならないという点も注意しましょう。
バーチャルホームステージングは、デジタル技術を活用して画像を加工する方法ではあるものの、売主の希望にそって、何でもかんでも自由にできるというわけではありません。上で紹介したように、バーチャルホームステージングで作られた画像を見た閲覧者が誤解しないようなステージングを心がけなければならないという点は注意しましょう。
なお、インターネット上の広告画像として利用する目的でバーチャルホームステージングを実施する場合、作成した画像に「これはバーチャルホームステージングで作成しています」「CGで作成されています」などの注意書きを明示しておくようにしましょう。これにより、閲覧者の誤解を防止することができ、実際の物件を見た時に、写真との差異を理由に不信感を抱くといったことも防ぐことができます。
内覧対策としての効果はない
バーチャルホームステージングは、実際の物件に家具やインテリアなどを配置するという方法ではないため、内覧者が物件の最終確認をする段階になると、何の効果も期待できないという点に注意しなければいけません。
web上の物件検索サイトでは、ライバル物件よりも目立つことができるため、反響率を高めることができるでしょう。しかし、自分が住むための家は、購入する場合でも借りる場合でも、画像を見ただけで契約するように人はいません。ほとんどの場合、最終決断のため、実際に物件まで足を運び、実物を確認するという工程を踏むのです。そして、バーチャルホームステージングの場合、この内覧の段階では、空室状態の物件を見てもらうことになるため、契約の後押しをするといった効果は期待できないのです。それどころか、広告画像を見て期待感が高まっていた分、空室状態の物件を見た時には、逆にガッカリしてしまう人が生じることも考えられます。
リアルホームステージングの場合、実施には手間とコストがかかりますが、web上の広告はもちろん、内覧時により良い印象を与えることができるようになるため、「物件の成約」という面では非常に強い対策となるのです。つまり、バーチャルホームステージングは、対策のコストが抑えられるものの、効果が限定的であるという点を認識しておきましょう。
まとめ
今回は、昨今の不動産業界で注目を集めるようになったバーチャルホームステージングについて、この技術の主な機能と実施時の注意点について解説しました。
記事内でご紹介したように、バーチャルホームステージングは、仮想空間上で物件内をコーディネートするという対策のため、人の手による作業が少なくなる分、ホームステージングにかかる手間や時間、コストを大幅に削減することが可能です。さらに、現在の不動産業界は、顧客とのファーストアプローチがインターネット上の物件検索サイトになることが多いという点から、魅力的な広告画像を手間なく作れる技術として、不動産会社を中心に人気になっているのです。
しかし、バーチャルホームステージングは、仮想空間上だからと、何でもかんでも自由に画像を加工しても良いわけではありません。最終的に、物件を購入する、もしくは借りるという人が、実際の物件以上に「良い物件!」と誤認しないよう、広告表示についてはルールを守った上で実施しなければいけないと考えておきましょう。