5万円以内の予算で出来るホームステージング!賃貸のホームステージング事情について
昨今では、賃貸物件の空室対策として、ホームステージングが注目されるようになっています。ホームステージングは、今ある既存物件の魅力を最大限引き出す方法で、入居希望者が内見した時に良い印象を与えることで早期の成約を目指すことができるなどと、不動産業界では非常に有効な手法とみなされるようになっています。
賃貸物件の空室対策では、ホームステージング以外にも、住宅設備の入れ替えや内・外装のリフォーム、リノベーション、家賃の値下げなど、さまざまな方法が存在します。しかし、多くの空室対策は、入居者を獲得するためとはいえ、多額のコストがかかってしまうことになるので、オーナー側の負担が大きくなってしまうという問題があるのです。例えば、リフォームやリノベーションを実施する場合、最低でも数十万円以上のコストがかかってしまうことになりますし、家賃の値下げに関しては継続的な収入減少を強いられるため、賃貸経営そのものを圧迫する恐れがあります。
一方、ホームステージングの場合、専門業者に依頼した場合でも、平均的なコストは10~25万円程度とされているため、オーナー側の負担はかなり軽減することができます。さらに、ホームステージングは、物件オーナーや仲介を担う不動産会社の担当者など、自分で行うことでさらにコストを削減することも可能です。
そこでこの記事では、賃貸物件市場におけるホームステージング事情や5万円以下で実施できるホームステージングについて考えてみたいと思います。
賃貸物件市場におけるホームステージング事情について
それではまず、賃貸物件市場でホームステージングがどのような取り扱いを受けているのか、その実態をご紹介します。ここでは、日本ホームステージング協会が毎年行っている実態調査のデータを参考に、賃貸物件市場におけるホームステージングの実態をご紹介します。
ホームステージングの実施割合について
まずは、ホームステージングを取り入れている不動産会社について、自社が取り扱っている物件の何割程度にホームステージングを実施しているのかを見ていきます。昨今では、中古住宅市場、賃貸物件市場共に、ホームステージングを取り入れ始めた企業が多くなっていると言われていて、入居者募集のためにホームステージングが実施されている賃貸物件も増加しています。
上の左側の画像は、ホームステージングを取り入れている企業が、自社が取り扱っている賃貸物件においてホームステージングを実施した物件の割合を示しています。2023年度の賃貸物件市場では、半数以上の物件にホームステージングを実施しているという企業が50%となっています。また「20~50%に実施」と回答している企業が約30%となっているため、かなりの割合の物件にホームステージングが実施されるようになっていると考えられるでしょう。
さらに、右側のグラフを見ればわかりますが、2022年度と比較するとホームステージングの実施件数については、明確に増えていることが分かります。増えたという回答が46.2%なのに対し、減少したとの回答が8.7%なので、賃貸物件の空室対策を目的としたホームステージングはかなり増加しているということが見て取れます。
ホームステージングを実施する物件の種類や実施基準
前項でご紹介したように、ホームステージングを導入している企業でも、全ての物件に対して実施しているわけではなく、半数程度の物件は空室状態のまま集客しているということが分かります。それでは、賃貸物件については、どのような基準でホームステージングを実施するかどうかを決めているのでしょう?ここでは、ホームステージングが実施された賃貸物件の種類と、なぜホームステージングが必要と考えられたのかについてのデータをご紹介します。
■ホームステージングを実施する賃貸物件の種類(複数回答)
引用:ホームステージング白書2024年
物件の種類では、単身者向け賃貸物件が最も多い割合を占めています。ただ、「ファミリー向け賃貸物件」や「築古の物件(リノベ済み含む)」も、同じような割合を占めていることから分かるように、ホームステージングが必要かどうかは、物件の種類で判断されているわけではないように思えます。
■ホームステージングを実施する基準(複数回答)
引用:ホームステージング白書2024年
ホームステージングが必要かどうかについては、上のグラフが分かりやすいです。やはり長期間空室が続いているという理由が最も多くの割合を占めていて、空室対策を目的にホームステージングが実施されています。「入居しにくい部屋に実施する」については、そのままの状態で入居者募集を行ったとしても、空室期間が長引くと考え、事前の対策としてホームステージングが実施されていると予想できます。
「高額家賃の部屋に実施する」については、都市部の賃貸物件で家賃の高騰が続いているため、競合物件との差別化やインターネット上の広告として家賃に見合うだけの物件画像を用意する必要が出てきたことから、ホームステージングに頼る業者が多くなっているようです。
このように、賃貸物件市場におけるホームステージングは、空室対策を意識していると考えられます。
ホームステージングの実施方法について
次は、ホームステージングの実施方法についてみていきます。不動産の売買においては、専門のホームステージング業者に依頼するという回答が4割近くと、最も多い割合を占めるようになっています。しかし、賃貸物件市場においては、以下の通り、仲介を担う不動産会社が行うというケースが多いようです。
■ホームステージングの実施方法(複数回答)
引用:ホームステージング白書2024年
上記の通り、賃貸物件のホームステージングは、不動産会社が家具や小物を用意して配置しているというケースが多いようです。ただ、2023年度においては、専門業者に依頼したというケースが2割を超えています。実は、賃貸物件市場でも、ホームステージングの実施について、専門業者に依頼するというケースが徐々に増えているのです。
というのも、過去のホームステージング白書を確認してみると、2022年度版のホームステージング白書では賃貸のホームステージングを専門業者に依頼しているという回答はありませんでした。これが、2023年度の物になると、専門業者への依頼が16%になっていて、最新版の2024年度版は20%を超えています。
つまり、賃貸物件市場でも、ホームステージングを取り入れる業者が増えていて、単に家具を配置しているというだけでは効果が出にくくなっていて、ホームステージングの『質』が重要視されるようになっているのだと思います。特に、都市部では、家賃の高騰が指摘されるようになっていますし、物件レベルに見合ったステージングを施したいと考えた時には、専門業者に依頼しなければ顧客に良い印象を与えられなくなっているのではないかと考えられるデータが出てきています。
ホームステージングにかける費用について
それでは、賃貸物件のホームステージングにどれぐらいの費用がかけられているのかも見ていきましょう。過去のホームステージング白書と比較すると、ホームステージングにかけられている費用も上昇していることが分かります。まずは、最新版のホームステージング白書2024年のデータからです。
■2023年度の賃貸におけるホームステージングの費用
引用:ホームステージング白書2024年
明確な費用は判断できませんが、賃貸物件におけるホームステージングは、物件の家賃換算で1~1.5カ月分の費用がかけられているケースが6割以上と、最も多い割合を占めています。一方、2023年度版のホームステージング白書はどうなっているのでしょう?
■2022年度の賃貸におけるホームステージングの費用
引用:ホームステージング白書2023年
2022年度の賃貸物件市場におけるホームステージングでは、家賃が5万~10万未満の物件に対して実施されているケースが6割以上となっています。一方、ホームステージングにかけられた費用については、3万~5万未満が38.2%、5万~10万未満も38.2%という割合になっています。つまり、2022年度のホームステージングについては、0.5~1カ月分の家賃をベースにホームステージングが施されていたと分析することができます。
これからも分かるように、賃貸物件市場のホームステージングにかける費用は、徐々に上昇していると言えます。これは、先ほど紹介したように、ホームステージングの質が重要視されるようになったことで、専門業者に対策を依頼するケースが増えていることが要因と考えられるのではないでしょうか?
ただ、賃貸物件の空室対策として非常に有効とされるホームステージングでも、可能な限り対策にかかるコストは押さえたいと考える方が多いはずです。そこで次項では、賃貸物件のホームステージングについて、5万円以下で実施できる対策とはどのような方法が考えられるのかについてご紹介していきます。
5万円以内の予算で出来るホームステージング
それでは、賃貸物件の空室対策としてホームステージングの実施を検討している方に向け、出来るだけコストをかけることなく、部屋の印象を高めるための方法をご紹介します。
ホームステージングと聞くと、空室状態に部屋に、おしゃれな家具やインテリア、照明などを配置することで内見者の印象を良くするという対策をイメージする方が多いのですが、これは勘違いです。ホームステージングは、購入・賃借希望者に「ここで暮らしてみたい」と思ってもらい、早期かつ高値での契約を促進することが目的の対策で、家具やインテリアを配置する方法以外にもたくさんの手法があるのです。
例えば、部屋の中を隅々まで綺麗に掃除することで物件の印象を高める、汚れやキズが付いた内装クロスの張り替えを行うといった行為も、内見者の印象を良くして「ここに住みたい」と思わせることができるため、ホームステージングの一種と判断できるのです。ホームステージングは、物件の印象を良くすることや入居後の生活を具体的にイメージさせるための対策なので、しっかりとポイントをおさえておけば、費用をあまりかけることなく早期の成約を期待することが可能なのです。
ここでは、賃貸物件のホームステージングとして、費用をあまりかけることなく実施できる対策をいくつかご紹介します。
①徹底的な清掃と整理整頓を実施
掃除用具などを用意するための費用は掛かるものの、実質的なホームステージングの予算としては0円で出来る対策です。先程紹介したように、ホームステージングは、家具を設置するという方法のことを指しているのではなく、購入・賃借希望者に「ここで暮らしてみたい」と思わせる対策全般のことを指しています。つまり、以下のような対策も、ホームステージングの一種と言えるのです。
- 不要な物を片付けて、スッキリとした空間を演出
- 室内を徹底的に清掃して綺麗にする
- お風呂やトイレなど、水回りを隅々まで磨き上げる
上記のように、物件内を徹底的に清掃して綺麗にするという対策は、ホームステージングの一種と言えます。実際に、専門業者にホームステージングを依頼する際、プロの手によるハウスクリーニングを実施してもらうというケースが増えています。
部屋の掃除は、物件オーナーや不動産会社の担当者の方でもできる作業なので、ホームステージングにかかるコストをおさえたい場合、自分たちで実施してみるのも良いのではないでしょうか。なお、水回りのしつこい汚れなどに関しては、素人では落とせない可能性があります。この場合、水回りの掃除だけ専門業者に依頼すると良いでしょう。
②照明の工夫
部屋の印象を考えた時には、照明が非常に重要な要素になります。例えば、内見する際、照明が設置されていない暗い部屋の場合、内見者に「暗い」「狭い」「古い」といったネガティブな印象を与えてしまうとされています。実際に、大手不動産ポータルサイトの調査によると、暗い物件と明るい物件を比較した場合、明るい物件の方が20~30%程度も成約率が高くなったとされているのです。また、明るい部屋の方が内見者の滞在時間が長くなるため、成約率の向上も期待できるとされています。他にも、中古住宅市場において、照明などが設置されていない暗い物件は、同じエリア内にある類似物件と比較して、売却できるまでの期間が約1.5倍も長くなるというデータがあるとされています。
つまり、賃貸の空室対策を考えた時には、照明はおしゃれな雰囲気を演出するためのアイテムとして使用できる以前に、明るさを保てるという点で、不動産取引に好影響を与えられる方法とみなせるわけです。したがって、費用をかけずにホームステージングを実施したいと考えた時には、照明を設置することで明るい空間を作り出すという方法がおすすめです。もちろん、間接照明などを用いて、温かみのある空間を演出するなど、照明を使った対策はさまざまあるので、試してみてはいかがでしょう。
照明は、安価でもお洒落な製品がたくさん存在するので、1万円程度のコストをかければ、部屋の印象をかなり高めることができるのではないでしょうか。
③観賞植物の配置
プロのホームステージング業者が実施するホームステージングでも、植物を配置することによってグリーンを追加するという方法が必ず採用されます。実は、ホームステージングの本場であるアメリカでも、グリーンの重要性は、ホームステージングに関する教科書の中で強調されています。グリーンは部屋に生気を与えるほか、以下のような効果が期待できるとされています。
- 植物を嫌う人は少ないので、幅広いターゲット層に好印象を与えられる
- 木造住宅が多い日本では、木の意匠とグリーンの相性が良いため、物件の印象がより良くなる
- 植物は、マイナス要素をカバーするための万能アイテムとして働く
ホームステージングにおけるグリーンは、上記のような効果が期待出来ることから、プロのホームステージング会社も必ず採用します。ホームステージングにかかる費用のことを考えても、ECサイトで安価に購入できるようになっているため、複数の植物を配置することを考えても、5,000円~1万円程度のコストで実施できると思います。
なお、設置する植物に関しては、生花ではなくフェイクグリーンがおすすめです。フェイクグリーンは、お手入れの必要がありませんし、空室が生じるたびに再利用できるため、ホームステージングにかかる費用をよりおさえることができるようになります。生花の場合、枯らさないようにするためのお手入れが必要、虫が湧いてしまう可能性があるなど、維持管理に手間がかかります。
④家具やインテリアを配置する
最後は、いわゆる空室ホームステージングを自分で実施するという方法です。大型の家具などを購入して設置することは難しいと思いますが、ファブリックの活用や壁面装飾などを施すだけでも、部屋の印象は大きく変わります。
例えば、カーテン、クッション、ラグなどを配置するだけでも部屋の印象が変わります。ファブリックを使って部屋を装飾する場合は、なるべく統一感のある色使いを心がけることで、洗練された空間を作り出すことができます。また、空室状態の場合、どうしても部屋が殺風景に見えてしまうため、ウォールステッカーや額縁を使って壁面装飾するのも安価な対策としておすすめです。殺風景な壁に変化がつけられるため、部屋の印象は大きく変わる事でしょう。
この他、花瓶、写真立て、オブジェなどの小物は、100円均一などでもお洒落なものが手に入る時代になっていますし、テーブルなどの小型家具などを配置するついでに用意しておくと良いでしょう。小物の設置は、生活感や温かみを演出することができるので、アクセントとして設置するのがおすすめです。
カーテンなどのファブリックや壁面装飾、小さなテーブルや小物程度で部屋を装飾するという方法なら、5万円以内のコストで必要になるアイテムを十分に用意できるはずです。
まとめ
今回は、賃貸物件市場におけるホームステージング事情や、出来るだけコストをかけずにホームステージングを施すための方法について解説しました。
記事内でご紹介したように、賃貸物件市場でも、年々ホームステージングへの注目度が高くなっていて、不動産会社を中心に多くの企業が取り入れ始めています。さらに、数年前までは不動産会社自身が対策を施すというケースが多かったとされているのですが、2022年頃から賃貸物件市場でも専門業者に対策を依頼する割合が増えているのです。2023年のデータでは、賃貸物件で実施されたホームステージングについて、2割程度が専門業者によるものとなっているなど、対策の質が求められるようになっていることがよくわかります。
この状況については、ホームステージングによる効果が広く認識され始めたことが大きな要因とされています。賃貸物件にホームステージングを実施した場合、対策を施していない物件と比較すると、成約までの期間が短くなったという回答が7割を超える結果となっています。さらに、ホームステージングを施すことで、従来の家賃よりも値上げできたという回答が約6割に達しているのです。
成約期間の短縮や家賃の値上げは、賃貸経営者にとって願ってやまない希望な訳ですし、今後の賃貸物件市場でもホームステージングの実施が拡大していくと考えられるでしょう。