2025.10.24

ホームステージングと新築モデルルームの代表的な違いを紹介!

近年の不動産業界で何かと話題となっているのがホームステージングです。ホームステージングは、もともとアメリカで誕生した中古住宅の販売促進手法なのですが、2000年代に入ってから日本国内の不動産市場でも取り入れられるようになっています。特にコロナ禍の2020年頃からは、非接触型のサービスが求められるようになり、バーチャルホームステージングと呼ばれるVR技術を活用した手法が開発されたこともあり、ホームステージングビジネスの普及が本格的に広がり始めています。

なお、ホームステージングの「ステージング(staging)」とは、「本番の舞台上のように演出をする」ということを意味しています。つまり「ホームステージング」は、家(ホーム)を「人が住んでいる(本番の舞台上)」ような素敵な空間に演出することで、よりスムーズな販売活動ができるようにするということを目的とした、住宅の販売テクニックの一種と言えるのです。

ただ、ホームステージングの意味について、このような説明を受けた時には、「それなら新築住宅のモデルルームと同じなのでは?」と考えてしまう人がいるはずです。実際に、ホームステージングは、建売住宅や分譲マンションに用意されるモデルルームやモデルハウスと多くの共通点があることは確かです。しかし、詳細まで見ていくと、ホームステージングとモデルルームには、明確な違いがいくつかあるのです。
そこでこの記事では、ホームステージングとモデルルームについて、代表的な違いをご紹介します。

違い① 対象が異なる「新築か中古か?」

一つ目の違いについては、対策を実施する物件の属性が異なるという点です。モデルルームについては、基本的に新築物件の販売促進を目的に用意されるもので、ホームステージングは、中古住宅や賃貸物件などが対象となるのです。この違いについて、以下でもう少し詳しくご紹介します。

モデルルームは、サンプルとして用意される物

新築戸建て住宅や新築マンションの販売時には、モデルルームやモデルハウスが用意されます。これは、購入を考えている家について、そこに住まうイメージを体験させるために用意されていて、いわば「サンプル」のような家や部屋を指しているのです。ちなみに、モデルルームにもいくつかの種類があるので、日本の新築業界における住宅展示の種類を以下にまとめてみます。

  • モデルハウス(注文住宅用)
    新築一戸建て住宅の見本として、各ハウスメーカーが用意する住宅サンプルです。住宅展示場、ハウジングセンターなど、複数のハウスメーカーがモデルハウスを集めて展示するスタイルになっているケースが多いです。ハウスメーカーによって、得意とする工法や標準としている設備などが異なるため、モデルハウスを用意することで、自社が建てる注文住宅の特徴や搭載設備を紹介することが目的となります。
  • モデルハウス(建売住宅用)
    建売住宅や分譲住宅の場合、完成した住宅を購入希望者が見学し、購入するかどうかを決めます。注文住宅の場合、完成するまでは設計図上でしか確認できないので、建てた後に「思っていたものと違う…」となってしまうケースも考えられます。しかし、建売住宅の場合、完成した物件を事前に確認できるので、入居後のズレが生じにくいのです。建売用のモデルハウスは、売却予定の物件内に、家具やインテリアを設置し、公開するスタイルになります。
  • 仮設モデルルーム
    これは、新築の分譲マンション用です。建築中のマンションについて、別の場所に同じ間取りの実物大の部屋を作り、購入希望者に内覧させるというスタイルになります。多くの場合、建設中のマンションの近くに用意されます。
  • 棟内モデルルーム
    完成済みのマンションの一室(or数室)を利用してモデルルームを作るスタイルです。購入希望者に内覧させるため、物件内に家具やインテリア、照明などを配置することで、魅力的な空間を作り出し、購買意欲を高めます。
  • サンプルルーム、ショールーム
    キッチンやバスルーム、リビングルームなど、特定の部屋の住宅設備の機能やサイズ感を見学、体験できる展示場のような物です。ハウスメーカーなどが自社のオフィス内にサンプルルームを構築する場合もありますが、建材メーカーが設備の機能性を紹介するためにショールームを用意している場合もあります。物件全体の確認を行うのではなく、あくまでも部分的な設備の機能などを確認することが目的になります。

このように、モデルルームやモデルハウスと呼ばれる手法にもいくつかの種類があります。ただ、モデルルームに共通しているのは、いずれも「新築物件である」ということです。戸建てや集合住宅、注文住宅や建売住宅など、物件そのものの姿は変わるものの、新築物件の販売促進を目的にしているということは変わりません。

ホームステージングは中古物件に対して実施される

一方、ホームステージングが対象としているのは、中古の集合住宅や中古一戸建てなど、中古物件となるのです。冒頭でご紹介したように、ホームステージングは、もともと中古住宅市場が活発なアメリカで誕生した方法です。欧米などでは、家はリノベーションを繰り返しながら100年以上利用することが想定されているため、中古住宅の売買は日本以上に活発なのです。

日本は、「新築信仰」という言葉が作られているなど、家の購入時には新築住宅を求める方が多いです。そのため、新築の販売促進方法として、上で紹介したようなさまざまな手法が考案されているのです。しかし、中古物件については、前述の新築物件に対する販売促進手法などは採用されることなく、基本的にガランとした空室状態、もしくはまだ居住者がいる状態で販売活動が進められるということが一般的とされてきたわけです。

ところが、少子高齢化による人口減少が続く日本では、全国的に空き家の増加が問題視されるようになり、国や自治体が中古物件の活用を後押しするようになったことで、中古住宅市場が徐々に拡大してきているのです。ただ、中古物件の売却を考えた時には、周囲にライバル物件が数多くあることが弊害となり、なかなか成約に至らない、希望する金額で買い手が見つけられないということが問題視されるようになったわけです。そこで、「中古の家をキレイに演出して、より早く、より高く売る」というホームステージングの考え方が日本でも注目され、2000年代に入ってから採用され始目ました。そして日本の不動産市場でも、ホームステージングの採用による売却価格のアップや、販売効率の向上と言った効果が認められたことで、一気に普及が拡大し始め現在に至っています。

なお、現在では、中古住宅の売買だけでなく、不動産賃貸業界においても、早期の成約を目指す方法としてホームステージングが利用されるようになっています。どちらにしても、ホームステージングは、新築ではなく、既存の物件を対象としているという点がモデルルームとの大きな違いと言えます。

違い② ホームステージングは居住中の物件でも導入可能

二つ目の違いについては、ホームステージングは、居住中の物件も対象となるという点です。

先程紹介したように、モデルルームやモデルハウスについては、新築物件の販促手法です。つまり、対策を施す物件内は、まっさらで空っぽの状態な訳です。一方、ホームステージングは、中古住宅を対象とした販促手法となるので、対策を施す際は必ずしも空室状態というわけではないのです。

もちろん、中古住宅の売却についても、既に入居者が退去している状態で、空室状態の物件内を家具などを使ってコーディネートしていくというケースもあります。しかし、中古住宅市場では、居住したまま売却活動を進めるというケースも珍しくなく、売買契約を結ぶ直前まで居住していることもあるのです。実際に、中古住宅の売却では、約6割が居住中の状態で行われているというデータも存在します。

したがって、ホームステージングは、このような「住みながら家を売りたい」という要望にも応える必要があり、完全な空室に対するホームステージング以外にも、入居中の部屋(家)に対するホームステージングを請け負う業者が増えているのです。

なお、ホームステージングの実施プロセスについては、完全な空室状態に対策を施す場合、新築のモデルルームやモデルハウスに近い部分があります。物件内には、家具やインテリアなどが残されていない状態と想定できるので、0から物件内のコーディネートを立案し、必要になる家具類のレンタル計画などを立てていくという感じで作業が進みます。

一方、居住中の物件に対するホームステージングの場合、このプロセスが大きく変わります。居住中の物件の場合、普段使用している家具や家電が残っている状態です。そのため、ベッドやダイニングテーブルと言った大型家具については、そのまま残した状態でステージングを施してほしいといった要望が出るケースも少なくないのです。この場合、現在の居住者の生活も考慮しながら、入居希望者が内覧しに来た際に「ここに住んでみたい」と思わせるような演出を行う必要があるわけです。つまり、まっさらな状態で0からコーディネートする時のセンスとは全く異なるテクニックが必要になります。

また、詳しくは次項で解説しますが、居住中の物件の場合、コーディネートに邪魔になる荷物が多い、物件そのものの汚れやキズで印象が悪くなるなど、新築物件では気にする必要のないさまざまな問題が出てきます。そのため、ホームステージングは、単に家具などを使ったコーディネートだけでなく、物件全体の印象を良くするために「何を行わなければならないのか?」を見極める必要があるのです。この点は、モデルルームとは大きく異なるポイントと言えるでしょう。

違い③ ホームステージングの場合、クリーニングや片付けの知識が必要

ホームステージングとモデルルームにおいて、最も違いが明確化される部分が、ホームステージングの場合、片付け・クリーニングの知識や整理、収納スキルが求められるという点でしょう。

先程から紹介しているように、モデルルーム、モデルハウスの場合、新築物件に対する販促手法となるので、物件内が汚れていることなどありません。新築されたばかりの家なので、ピカピカの状態で、家具などを搬入するまでに室内の片づけや掃除が必要になるということは絶対にないのです。一方、ホームステージングの場合、直前まで「誰かが住んでいた家」を良く見せるための方法なので、家具などによって演出を加える以前のプロセスとして、片付けやクリーニング、軽微なリフォームと言った作業が必要になるケースが多いのです。つまり、ホームステージングはモデルルーム作りには必要とされない知識やスキルが求められるということです。

ホームステージングが対象とするのは、誰かが住んだことがある中古物件や賃貸物件となるので、部屋の状態をしっかりとチェックしたうえで必要な対策を考えなければいけません。部屋の中にどれだけ素敵な家具やインテリアを配置したとしても、その後ろにあるクロスが汚れていたりカビが繁殖していたりすれば、購入希望者の購買意欲は下がってしまうはずです。そのため、ホームステージング業者は、空室ホームステージングを実施する前に、以下のような点を確認します。

  • 居住中の物件売却の場合、不要な荷物がどれだけあるのか?
  • 専門業者によるクリーニングが必要か?
  • 補修やリフォームしなければいけない箇所がないか?
  • 草刈り・庭木カットは必要か?(長期間空き家だった場合)
  • 不用品回収、家具の一時預かりは必要か?

ホームステージングは、物件をお洒落な空間に装飾することが目的の対策なのではなく、あくまでも高値での売却や早期の成約を目的に実施される対策です。そのため、ホームステージング業者は、「どのような部屋にコーディネートするか?」以前に、「どの程度の清掃・補修が必要なのか」を適切に判断する必要があるのです。

例えば、築浅物件の場合で、軽微な補修やクリーニングで対応できる場合であれば、ホームステージャー自身がそのまま作業を実施します。しかし、蓄積した汚れなど、より専門的なクリーニングやリフォームが必要と考えられる場合、その概算を出してお客様に提案したり、希望がある場合には専門業者を手配するといったこともホームステージャーの業務になるのです。

新築物件の場合、ピカピカの状態で対策を施すので、家具やインテリアで空間をコーディネートすれば売れる状態になります。しかし、中古物件は、「高く売るためにはどこまで綺麗にするのか?」「内見者は、どんなところをチェックするのか?」を考慮しながらホームステージングを施していかないと、売れる物件にはなかなかならないのです。

この他、居住中の物件については、広々とした空間を演出するために整理整頓の知識が必要になることがあります。また、既存家具の汚れなどが目立つ場合、一時的にレンタル家具に交換する必要があり、その場合には、不用品として処分したり、家の売却が完了するまで家具を預かるといった対処も必要になります。また、相続した実家の売却依頼が増えている昨今では、遺品整理からスタートしなければならないケースも増えています。実は、この辺りもホームステージング会社の作業領域となっていて、ホームステージングは本当に幅広い知識とスキルが求められる対策なのです。

違い④ ホームステージングの場合、細かくターゲット層の選定が行われる

新築住宅の販売促進のために用意されるモデルルームやモデルハウスでは、メーカーの最先端技術が映えるインテリアや最先端かつスタイリッシュでトレンドを取り入れたインテリアなどが使われているケースが多いです。これは、新築住宅については、どちらかというと「憧れ」が重視される傾向にあり、実際の購買価格よりも高いものであっても、足を運んだ人に「こんなステキな家が欲しい!」などと、住宅購入に対してポジティブな印象を持ってもらうということが重視されているからです。

一方、中古住宅の販売については、より現実的で、販売促進のためには綿密なターゲット層の絞り込みが必要とされます。売却を検討している家について、物件を気に入りそうな層がどこなのかを考え、そのターゲット層に好印象を与えられるようなコーディネートを行わなければ、ホームステージングによる効果は激減してしまうのです。したがって、中古住宅に対するホームステージングでは、以下のような要素を考慮しながら、ターゲットを選定していきます。

  • 物件の間取り
  • 物件の広さ
  • 物件に設置されている設備やその機能
  • 階数
  • 家の立地
  • 家の周辺環境(最寄り駅や周辺の商業施設など)

例えば、1LDKの中古マンションの売却を想定しましょう。1LDKとなると、基本的には単身者向けの物件と考えられます。ただ、物件の階数や立地について、「1Fにある」「人通りが少ない道路に面している」という条件の場合、セキュリティ面を重視する女性には避けられる可能性が高いと考えられるため、単身男性への売却に向けた対策を施した方が、早期の成約を目指せるのではないかと考えられます。
一方、物件の階数が2F以上にあり、キッチン設備が充実している(3口コンロが搭載されているなど)物件の場合、単身の女性もターゲットに入ってくるわけです。

この他、物件のターゲットを選定する場合には、「近くに子供が遊べる公園があるか?」「最寄駅からの距離はどの程度か?」「日常生活に便利な商業施設があるか?」などの要素によって、どのような層の人に好まれる物件なのかが変わってくるのです。そして、物件のターゲット層が絞り込めれば、その人たちのライフスタイルなどを想定し、好印象を与えられるコーディネートを作っていくわけです。
例えば、若いDINKS世帯と子供が独立したアクティブシニアでは、そこに住む人の人数は同じでも、生活習慣などが大きく異なるため、インテリアスタイルやインテリアコンセプトに求めている条件は大きな違いがあるはずです。

ホームステージングは、物件ごとの異なるターゲットに合わせたインテリアコンセプトで演出を実施することで、高値での売却や早期での成約という効果をもたらせてくれます。つまり、ホームステージングの場合は、単に綺麗な部屋を見せるという対策ではないため、インテリアコーディネートの知識があるだけではダメで、不動産やマーケティングの知識まで求められるという非常に高度な販促手法になるのです。

実際に、ホームステージングサービスを展開する企業の中には、ホームステージングに係わる幅広い知識を学んだホームステージャーと呼ばれる有資格者が在籍しています。そして、中古住宅の売却や、賃貸の空室対策の相談があった際には、ホームステージャーが担当者となり、家の周辺調査なども丁寧に行い、売れる物件にするための対策を施していくのです。

まとめ

今回は、一見すると、同じような対策のように見えるホームステージングとモデルルームの違いについて解説しました。

記事内でご紹介したように、ホームステージングとモデルルームは、詳細まで見ていくと、大きな違いが存在する販促手法であることが分かっていただけたのではないでしょうか?モデルルームについては、新築物件であるため、物件そのものが高い魅力を持っています。そのため、室内のコーディネートに関しては、デザイン部分に重視するだけでも、十分に売れる物件にすることができるのです。

しかし、ホームステージングの対象となるのは、既に人が住んだことのある既存物件で、中古住宅の魅力を最大にまで引き出さなければならないのです。中には、間取りが現在のトレンドとはズレている物件や、築年数が経過していることで各所に汚れや損傷が見られるといった条件の物件もあります。ホームステージングは、こういった条件の悪い物件についても、高値での売却や早期の成約を実現するための対策を施し、実際にその効果が認められるようになっているのです。

日本国内でも、ホームステージングの人気はどんどん上昇しており、ホームステージャーの活躍の場が急拡大し始めています。最近では、賃貸物件の早期の成約にも非常に有効な手法とみなされるようになっていて、仲介を担う不動産会社を中心に導入する会社が増加しているという状況です。ホームステージングは、モデルルームやモデルハウスなど、新築の販促手法と比較すると、まだまだ知名度が低い手法と言えますが、賃貸物件市場でも急速にホームステージングの人気が上昇していることを考えると、今後はホームステージングに対する一般的な認知度が上がっていくと予想できます。