ホームステージングと内装リフォーム。空室対策ならどっちが正解?
安定した賃貸経営を実現するためには、空室が生じた時、出来るだけ速やかに次に入居者を見つけるということが大切です。空室期間が長期化すると、本来は得られるはずの家賃収入が得られなくなるため、賃貸経営が圧迫されてしまうことになります。
そのため、賃貸物件のオーナーや管理会社にとっては、物件に空室が生じた際、どのようにして物件の魅力を引き出し、次の入居者を呼び込むのかが大きな課題となります。特に近年では、相続税対策でアパート建設が増加したことや、人口減少による空家の増加が指摘されているなど、特定のエリアでは賃貸物件が供給過多になっていると言われています。実際に、エリアによっては新築物件でも思うように入居者を集めることができていない物件も増えていると言われています。
賃貸物件の空室を早期に埋めるための対策としては、ホームステージングによる演出やクロスや床材などの内装リフォームによる物件の魅力向上が考えられるのですが、物件オーナーからするとどちらの方法がより効果的なのか判断に迷う場合も多いはずです。そこでこの記事では、賃貸物件の空室を早期に埋めるためのアプローチについて、ホームステージングと内装リフォーム、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら解説していきます。

ホームステージングを利用する場合のメリット・デメリット
まずは、賃貸物件の空室を埋めるためのテコ入れ策としてホームステージングを採用する場合のメリットとデメリットです。
ホームステージングとは、空室物件の室内に家具やインテリア、照明や植物を配置して、物件内を実際の生活空間のようにコーディネートするという手法です。空室のままで何もない状態の部屋と比較すると、入居希望者が内見しに来た時、入居後の生活を具体的にイメージさせることができるようになるため、内見者の購買意欲を高めることができ、早期の成約が期待できる方法として不動産業界で注目されています。
ホームステージングは、もともと中古住宅市場が活発な欧米で取り入れられていた手法なのですが、2000年代に入ってから日本国内の不動産市場でも採用されるようになっています。賃貸物件の空室対策としては、2020年頃より、一気に普及が拡大してきたという新しい手法となります。そのため、賃貸オーナーや仲介を担う不動産会社の中にも、ホームステージングの詳細をまだつかみ切れていないという方も少なくないように思えます。
そこでここでは、ホームステージングが具体的にどのような対策を実施するのか、また空室対策として採用した場合のメリット・デメリットなどについて解説します。
ホームステージングは具体的に何をする?
ホームステージグは、まだまだ新しい技術であることから、「具体的に何をするのか?」という点に疑問を持つ方も少なくないようです。一般的には、空室状態の部屋の中に家具やインテリア、照明などを配置することで、実際の生活空間のように演出し、内見者の印象を良くする方法と解説されます。
ただ、「ホームステージング=家具などを配置する方法」という理解は間違っています。ホームステージングの目的は、不動産の売買や賃貸において「高値での売却」や「早期の成約」であり、これを実現するために実施する対策全般がホームステージングの一種と言えるのです。実際に、日本ホームステージング協会が公表しているホームステージング白書2024年では、2023年度の不動産売買、賃貸部門で実施されたホームステージングの内容について、以下のようなデータを公表しています。
■2023年度に実施されたホームステージングの内容
引用:ホームステージング白書2024年
上記のうち「空室ホームステージング」が、皆さんのイメージにある、部屋の中に家具やインテリアを配置するという方法となります。しかし、その他の実施内容を見ていただければ分かりますが、ホームステージングは多岐にわたる作業が実施されています。
例えば、ハウスクリーニングについは、物件の中をプロの清掃業者に依頼してピカピカに綺麗にしてもらうという対策です。これは、部屋の中に家具などを配置したとしても、室内の汚れが落としきれていない場合、内見者の印象を悪くしてしまう可能性が高いため、ホームステージングの一環として実施されるようになっています。この他にも、不用品の回収、リサイクルや消臭、芳香、家具の一時預かりなど、多岐にわたる作業が実施されていることが分かります。
先程紹介したように、ホームステージングは、売買や賃貸の対象となっている物件について、「何をすればより高く、早く成約に至れるのか?」を考え、それに必要と思われる対策全般を実施することであり、部屋の中に家具やインテリアを配置するという単純な方法ではありません。近年では、不動産業界でホームステージングの需要が高くなっています。そのため、ホームステージングサービスを請け負う業者が増えてきており、実施できるサービス内容が多様化してきているわけです。
それでは、賃貸物件の空室対策としてホームステージングを実施する場合、どのようなメリットがあり、またその逆に注意しなければならないデメリットはどのような事なのでしょうか?その辺りを以下で解説していきます。
空室対策としてホームステージングを実施するメリット
それでは、賃貸物件の空室対策としてホームステージングを選ぶことで得られるメリットについて解説します。ここでは、下で紹介する内装リフォームと比較した時のメリットを中心にご紹介します。空室対策としてホームステージングを選んだ場合、以下のようなメリットが得られるでしょう。
- 低コストで高い効果が期待できる
- 対策にかかる時間が短い
- ターゲット層に合わせた演出が可能になる
- 視覚的なインパクトが得られる
まず「低コストで高い効果が期待できる」についてですが、ホームステージングは、内装リフォームと比較すると、低コストで実施可能です。築年数がさほど経過していない物件の場合、内部の汚れなどもそれほど目立つことはありません。そのような物件の場合、室内に家具やインテリア、照明などを配置するだけで、内見者の印象が大幅に改善されるため、低コストで空室を埋められる可能性があるのです。また、内装リフォームと比較すると、空室対策にかかる時間が大幅に短くなる点も大きなメリットです。クロスや床材をリフォームするとなると、最低でも数週間単位の時間がかかってしまいます。しかし、ホームステージングの場合、あらかじめコーディネートに必要になる家具などを用意しておけば、最短一日で対策が完了するのです。専門業者に対策を依頼する場合でも、打ち合わせを含めて数日以内に部屋のコーディネートを完了させることも可能です。賃貸経営者にとって、空室期間は可能な限り短くしたいと考えるはずですし、短期間で対策が完了するという点は大きな魅力になるのではないでしょうか。
さらに、ホームステージングの場合、ターゲット層に合わせた演出が可能になる点も魅力です。内装リフォームは、室内が綺麗にリニューアルされるものの、何の演出も施されていない場合、内見者からすれば「どれも同じような物件」に見えてしまいます。そのため、契約するかどうかを決断する際には「家賃の安さ」や「導入されている設備のグレード」などが重視されてしまうのです。一方、ホームステージングの場合、物件のターゲット層を明確にしたうえで、その人たちが内見に来た際に最も良い印象を与えられるように室内をコーディネートすることができます。そのため、他の部屋と比較検討された場合でも、「ここに住んでみたい!」と思わせることができるようになり、早期の成約が期待できるようになるのです。ホームステージングは、ターゲット層に合わせた家具やインテリアを使用することで、物件の魅力を最大限引き出し、他の物件との差別化を図ることができるという点が非常に大きなメリットになります。さらに昨今では、バーチャルホームステージングと呼ばれる手法が開発されていて、種類の異なるステージングを施した物件画像を同時に用意することができるようになっています。そのため、幅広いターゲット層の方に対し、同時に物件の魅力を伝えられるようになっています。バーチャルホームステージングの詳細については、以前別の記事で解説しているので、以下の記事も併せて確認してみてください。
そして、ホームステージングの最大のメリットと言えるのは、入居希望者が内見した時に好印象を与えることができるという点です。内装リフォームを施せば、確かに室内は綺麗で新しい部屋という印象を与えることができます。しかし、綺麗さや新しさに関しては、新築物件に勝つことは絶対にできませんよね。ホームステージングの場合、内見者に物件の魅力が最大限伝わるような演出を行うため、第一印象で物件を気に入ってもらえる可能性が高まり、早期の成約が期待できるのです。ターゲット層に好印象を与えられるようなステージングを施せば、視覚的なインパクトが得られるため、空室状態で内見させる物件と差別化することができるわけです。
関連:バーチャルホームステージングの主な機能と導入時の注意点をご紹介!
空室対策としてホームステージングを実施するデメリット
それでは、賃貸物件の空室対策として、ホームステージングを選んだ場合のデメリットについてもご紹介します。まず、対策にはコストがかかってしまうという点は明確なデメリットになりますが、この部分については、どのような対策を施すとしても、いくらかの費用がかかることは間違いないので、致命的なデメリットとまでは言えないでしょう。
ただ、ホームステージングによる対策については、あくまでも一時的な効果しか得られないという点は、内装リフォームと比較した時には明確なデメリットと言えます。
ホームステージングは、実施内容が多様化しているものの、賃貸物件の空室対策として実施される内容は「空室ホームステージング」がメインとなります。そして、この対策については、部屋の中に家具などを配置することで、内見者に入居後の生活を具体的にイメージさせるというものです。つまり、ホームステージングの効果は「内見時」など、短期的な効果に留まってしまうのです。内装リフォームの場合、クロスや床材が新しくなっているため、入居者は、そこで生活を始めてからもリフォームの恩恵を受けることができます。また、賃貸物件そのものに関しても、内装が綺麗になったことで長期的に見ると物件価値の向上と言った効果が期待できるのです。
ホームステージングは、あくまでも「空室が埋まるまでの演出」であり、実際の内装自体を修繕するわけではないため、長期的な物件価値の向上などを見込むことはできないという点がリフォームと比較した場合のデメリットになります。なお、昨今のホームステージング業界では、軽微な修繕や築年数が経過した物件のリフォームを請け負ってくれるステージング会社が登場していて、リフォームもホームステージングの一環とみなされる場合もあるようです。ここでは、両者の違いを分かりやすくするため、別物として解説しています。
内装リフォームを利用する場合のメリット・デメリット
次は、クロスや床材、設備など、物件のベースとなる部分そのものを刷新する方法による空室対策です。空室が生じた際、次の入居者を迎えたいと思っても、前入居者の部屋の使い方などによっては、そのまま貸し出すことができないケースが考えられます。例えば、壁に画びょうなどを直接刺していたことで、クロスに穴が開いている、大型家具を配置していた部分の床材が凹んでいる場合、そのままの状態で入居者募集をかけてもなかなか成約には至らないでしょう。
そのため、原状回復以外の部分についても、入居者募集を開始する前にリフォームをかけるケースも多いです。特に、壁紙や床材のリフォームは、物件全体の清潔感や高級感を高めることができるので、早期の成約を目指す時には有効に働きます。また、築年数が経過した物件の場合、部屋に導入されている設備の陳腐化が、空室が長期化する要因になるケースがあります。したがって、エアコンなどの設備について、最新のものに交換するといった対策も有効です。
それでは、内装リフォームによる空室対策は、上で紹介したホームステージングと比較した時、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
リフォームとリノベーションとの違い
賃貸物件の空室対策では、リフォーム以外にもリノベーションと呼ばれる方法があるのですが、リフォームとリノベーションは似て非なるものだということは頭に入れておきましょう。どちらも、専門業者に依頼して部屋の工事を行う方法なので、呼び方が異なるだけで、同じことを意味していると考えしまいがちです。しかし、リフォームとリノベーションは、以下の通り、異なる意味合いを持っているのです。
- リフォーム
リフォームは、老朽化や劣化した部分を「新築に近い状態に戻す」ことを意味しています。賃貸物件においては、原状回復や修繕工事がリフォームに当たり、分かりやすく言うと「悪くなった部分をもとに戻す」工事のことです。例えば、耐用年数が経過したクロスを張り替えする、塗膜の効果が切れた外壁を再塗装するといった工事がリフォームです。 - リノベーション
リノベーションは、単に悪くなった部分をもとに戻すだけでなく、既存建物の価値をさらに向上させる、住まう人の価値観を反映した改修を目的とした工事を指しています。例えば、太陽光発電設備を搭載する、断熱性や耐震性を向上させる工事を実施するなど、元の状態よりも高い性能を目指すための工事がリノベーションです。ちなみに、外壁塗装でも、断熱塗料や遮熱塗料を採用するという場合、付加価値が高まるため、リノベーションに当たります。
上記のように、リフォームは「元の状態に戻す工事」、リノベーションは「より高い性能を目指すための工事」と言った感じで、両者は異なる工事を指しています。特に、リノベーションの場合、間取りを変更するなど、物件全体にわたる大規模な工事になりがちなので、実施のためにはかなりのコストと時間がかかります。
空室対策として内装リフォームを実施するメリット
内装リフォームによる空室対策には、以下のようなメリットがあると考えられます。
- 長期的な物件価値の向上
- 物件全体の印象アップ
クロスや床材を修繕するなど、内装を一新することができれば、長期的な視点で考えると、物件そのものの価値を高めることができるようになるでしょう。先程紹介したように、ホームステージングは、あくまでも「内見時の印象を良くする」という方法で、入居後の部屋のコーディネートは入居者自身が行うのです。そのため、プロがコーディネートした部屋を再現するのはなかなか難しく、入居後に「イメージと違った…」となるケースも考えられるわけです。しかし、内装リフォームの場合は、部屋そのものが綺麗になっているわけなので、入居後の満足度も高いまま維持することができるようになります。また、内装を一新した物件は、次の退去後も継続して高い競争力を維持し続けることができる点もメリットとなります。
内装リフォームによる空室対策は、物件の清潔感や真新しさをアピールすることができるようになるため、築年数が経過したライバル物件との差別化ポイントにもなります。
空室対策として内装リフォームを実施するメリット
一方、内装リフォームによる空室対策は、ホームステージングと比較すると、以下の点がデメリットとなります。
- 多額の費用がかかる
- 時間がかかる
物件オーナーにとって、最も悩ましいデメリットが、空室対策とはいえ、多額の費用がかかってしまうという点です。例えば、6畳程度の部屋でも、クロスを張り替えする場合、採用する壁紙によって上下しますが40,000〜100,000円程度の費用がかかると言われています。フローリング張替えについては、1畳当たり2~4万円程度かかってしまいますし、エアコンを交換する場合は15~20万円(本体、工事費込み)が相場です。つまり、内見時の印象を良くするために、6畳程度の物件について、クロスと床材のリフォームとエアコン交換を行う場合、安くても30万円以上のコストがかかってしまう訳です。ホームステージングの場合、専門業者に依頼しても、ここまでの費用は掛かりませんし、物件オーナーや不動産会社が実施する場合、数万円のコストで実施することができるのです。内装リフォームは、長期的に物件の価値を維持できるというメリットがあるものの、空室対策として見た場合には、費用がかかりすぎると言えるかもしれません。
さらに、内装リフォームの場合、対策が完了するまでに時間がかかってしまう点もデメリットです。業者探しや、業者との打ち合わせ、実際の施工などを含めると、数週間単位の時間を要してしまう場合もあり、「早く空室を埋めたい」と考えているオーナー側にとっては、対策に時間がかかるという点もデメリットになると言えるでしょう。
ホームステージングと内装リフォームならどっちが正解?
ここまでの解説で、賃貸物件の空室対策として見た場合、ホームステージングと内装リフォームは、どちらも一長一短があると言えます。それでは、実際に空室が生じた時、ホームステージングと内装リフォームで迷った際には、どちらを選べば良いのでしょうか?
この問題については、物件のターゲット層と予算、物件の状態などに応じて、適切な手段を選択することが大切です。
例えば、築年数が経過した古い物件の空室対策の場合、そのままの状態でホームステージングを施したとしても、内装の劣化が目立ってしまうため、本来のステージングの効果が薄れてしまう可能性があります。したがって、予算に余裕があるのであれば、内装リフォームを優先させる方が良いと考えられるでしょう。古い物件については、クロスや床材など、内装部分のリニューアルを優先させれば、長期的な視点で見ても競争力を維持することができると期待できます。
一方、対策にかけられる予算が少ない、出来るだけ早く次の入居者を見つけたいという場合は、即効性の高い対策であるホームステージングがおすすめできます。ホームステージングによる対策は、インターネット上の物件広告の段階でライバル物件との差別化ができるようになるため、広告の問い合わせ率の向上や内見者数の増加が期待出来ます。内見者数が増えれば、当然、早期の成約も期待できるはずです。なお、築浅物件で、室内の経年劣化はさほど目立たないという場合も、ホームステージングがおすすめです。
ただ、空室を可能な限り速やかに埋めたいと考えた場合、「ホームステージングと内装リフォームならどっちが良いのか?」と考えるのではなく、クロスや床材のリフォームで土台を整えたうえで、そこにホームステージングで演出を加えるという方法が最も効果的と言えます。ホームステージングと内装リフォームを組み合わせることにより、物件の基礎的な価値を高めつつ、ターゲット層が理想とする生活イメージを具体的に提供することができるようになるので、成約率をさらに高めることができると期待できるわけです。したがって、結論としては、予算に余流があるなら「内装リフォーム+ホームステージング」と言う選択が最も望ましいと言えるでしょう。
まとめ
今回は、賃貸物件の空室対策として見た場合、ホームステージングと内装リフォーム、それぞれの方法にどのようなメリットとデメリットがあるのかについて解説しました。
空室対策においては、ホームステージングとクロスや床材などの内装リフォームは、どちらも有効な手段となるでしょう。しかし、対策にかかるコストや時間、効果をもたらす時期が大きく異なるため、物件の状態や予算、ターゲット層に応じて最適な方法を選択しなければいけません。
即効性の高い空室対策を望んでいるのであれば、基本的にホームステージングの方がおすすめできると言えますが、もともとの物件の状態が悪いのであれば、内装の修繕を同時にしなければ、ステージングの効果が薄れてしまう可能性があります。少子高齢化による人口減少が進む日本では、賃貸物件は供給過多になっていると言われ始めているので、所有物件の競争力を高めるためには、状況に応じて適切な手法をうまく組み合わせる必要があると考えてください。